「何のためにあるのか?」 フェイスウィンドウ考察
2012年03月20日 (火)
◆フェイスウィンドウって?
ノベルゲームにはフェイスウィンドウというものがある作品が存在します。

↑祝福のカンパネラ(ういんどみる,2008)
この絵でいう画面左下のキャラクターの上半身(顔)が表示されている部分です。キャラクターの顔を切り取り、枠の中に表示させていることからフェイスウィンドウと呼ばれています。今回はこのフェイスウィンドウについてどうしてこんなものがあるのか考察していきます。
◆他ジャンルの画面構成 -RPGを例に-
もともとこのフェイスウィンドウ、ノベルゲームよりも他のタイプのゲームで見る機会が多い表現です。

↑空の軌跡 the 3rd(Falcom,2007)
空の軌跡というRPGの一場面です。画面上のキャラクターの台詞が表示されているウィンドウにしゃべっているキャラクターの絵がいっしょに表示されています。どうしてこのフェイスウィンドウがいるかというと、それは作品の画面構成によります。
この作品の場合、画面は3つの要素で構成されています。
① 背景……キャラクターがいる場所の様子を示す
② ドット絵……背景の中でキャラクターのいる場所とキャラクターの大まかな様子を示す
③ テキストウィンドウ……キャラクターの会話を示す
これらの要素を使ってストーリーを展開していきます(ゲーム部分はまた別の構成になりますが)。
ですがこれだけだと不便なところもあって……ドット絵の場合、キャラクターの外見の詳細や表情はわかりません。そこで、フェイスウィンドウの出番となるわけです。キャラクターの表情を絵で出すことでテキストを読まなくても簡単な喜怒哀楽がわかるようになっています。これがRPGで使われるフェイスウィンドウの一例です。
◆ノベルゲームの画面構成
では、ノベルゲームの話に戻ります。RPGでもストーリーを語るという要素はありますが、ノベルゲームの場合、選択肢という要素以外のゲーム要素がほとんどなくなり、ストーリーを語ることを特化させた形式のゲームとなります。ノベルゲームの場合、画面構成は以下のようになります。テキストが画面全体に表示されるタイプの作品もありますが、今回それは省きます。

↑はつゆきさくら(Saga Planets,2012)
① 背景……視点人物から見た現在地の情景
② 立ち絵(一枚絵)……視点人物から見たキャラクターの大まかな様子を示す
③ テキストウィンドウ……キャラクターの会話、視点人物の心情等を示す
先に例に出したRPGと比べて違うのは、ドット絵が立ち絵になっているところですね(RPGでも立ち絵っぽいのが使われることもありますけど、ノベルゲームの方が強い要素なので)。また、RPGは第三視点から俯瞰した情景を表示しているのに対し、ノベルゲームでは主視点から見た情景になっていて語り方も変わってくるのですが、これについては割愛。
背景/立ち絵(一枚絵)/テキストウィンドウ、この3要素がノベルゲームを構成する大きな要素です。
で、これにフェイスウィンドウが加わっている作品が存在します。ノベルゲームの場合、立ち絵でキャラクターの表情を表現できるのに、わざわざテキストウィンドウの横にフェイスウィンドウを付け加えています。どうしてこんなことをするのでしょうか?
というわけでフェイスウィンドウの役割を考えてみました。
◆フェイスウィンドウの役割
(1)制作コスト
ひとつには制作コストの制限によるものがあります。立ち絵の差分を多く用意するというのはそれなりのコストが生じます。しかし、立ち絵ではなく表情だけの差分でいいとしたら、描かなければならない量が減るのでコストを大きく減らすことが出来ます。

↑魔法少女アイ2(colors,2002)
このような作品の場合だと、立ち絵はただキャラクターがいるということを表示しているに過ぎません。キャラクターの表情差分は全てフェイスウィンドウで表示されるので、立ち絵は文字通りただ立っているだけです。魔法少女アイの場合一枚絵時の差分にもフェイスウィンドウが関わってくるのですがそれは(5)で。
(1’)制作方法
また、制作コストとも関わってくるところですが、作品の立ち絵の使われ方もまたフェイスウィンドウの採用の可否を握るところです。
戦闘シーンやHシーンが多いゲーム等では立ち絵よりも一枚絵が主体となり、立ち絵のバリエーションを用意するよりもとにかく一枚絵をたくさん用意しなければなりません。そこでそれほど多くない立ち絵のシーンはフェイスウィンドウで済ませるという方法をとることもあります。

↑装甲悪鬼村正 邪念編(2010,NitroPlus)
このようにフェイスウィンドウは制作上の都合で使われてきましたが、近年、再びフェイスウィンドウを使用する作品が増えてきています。
(2)ウィンドウのワイド化
ここ数年のPCディスプレイのワイド化に伴い、PCノベルゲームもまたワイド画面にシフトしていっています。ワイド画面になってもテキストウィンドウはどこまで大きくできないので、画面下部のスペースが余ってしまいます。そのスペースにフェイスウィンドウを入れている作品が増えてきています。デザイン的にフェイスウィンドウを挿入してるのもあるかもしれませんね。
①であげた装甲悪鬼村正もワイドディスプレイならではの画面の使用方法です。
しかし、ワイド化でフェイスウィンドウを追加したような作品では立ち絵の差分は十分に存在しています。立ち絵を全て用意してなお、フェイスウィンドウも実装しているのです。
(3)テキストの横にあった方が読やすい
ノベルゲームの画面においてユーザーの視線は主にふたつの場所を行き来します。それはテキストの表示部分とグラフィックの表示部分です。ユーザーは基本的にテキストを読んでいきますが、立ち絵等のグラフィックが変化すると視線がそちらに移動します。意識せずに何万回と上下の往復運動を行っているわけです。
この視線の移動が少なければ、それだけ読む分には楽になります。フェイスウィンドウの場合、立ち絵を気にせずに読むことも出来るので、テキストとその左のバストアップを並べて読むことができ、負担を減らすことが出来ます。

↑穢翼のユースティア (August,2011)
余談:フェイスウィンドウと立ち絵と
しかし、近年では演出上、立ち絵を動かす作品の割合も増えてきています。その場合、立ち絵の方を見なければならないので、フェイスウィンドウのお役ご免です。フェイスウィンドウの得意なところは立ち絵演出によって消えてしまうわけです。この場合、立ち絵とフェイスウィンドウ、どっちを見ればいいんでしょう?通常立ち絵とフェイスウィンドウとテキストウィンドウの3つとなるとちょっとしんどいです。実際は無意識的に切り替えているのかも知れませんけど。
(4)誰が何をしゃべっているか
立ち絵がない画面外のキャラクターの発言時、誰の発言か、フェイスウィンドウがあればわかりやすいです。発言者の名前がついてあったり、ボイスでも判別が効きますが、フェイスウィンドウも一役買うことが出来ます。

↑Hyper→Highspeed→Genius(ういんどみる,2011)

↑斬魔大聖デモンベイン(NitroPlus,2003)
参考:「今、誰がしゃべっているのか?」のエロゲ的表現の分類と考察 -散録イリノイア-
(4’)誰がいるか
位置可変型テキストウィンドウ(吹き出し式、ボックス式)を採用している作品では以下のように誰がいるかをフェイスウィンドウで表わすことも出来ます。

↑恋色空模様(すたじお緑茶,2009)
(5)一枚絵の時の表情差分
立ち絵だけでなく、一枚絵が表示されている状況であっても、フェイスウィンドウを表示することが出来ます。一枚絵は立ち絵とは違い、特殊な状況であっても表現できる便利さを備えていますが、立ち絵に劣る部分もあります。それが差分です。
一枚絵の場合、差分を作り、いくつもの表情をキャラクターに持たせることはそのために作られた立ち絵のそれよりも難しいです。ですが、一枚絵にフェイスウィンドウを表示させることによってそれを簡単に補うことが出来ます。



↑your diary(CUBE,2011)
しかし、そうすることによって起きるのが一枚絵の価値の低下です。一枚絵が表示されても表示されたその時以降は、一枚絵の切り替わりを除いてフェイスウィンドウ(立ち絵)の方を見てしまうわけです。立ち絵が一枚絵を駆逐するとまではいいませんが、一枚絵の役割が特殊な情景を出すこと、画面構成の変化(立ち絵→一枚絵の切り替わり)に限定されることになるでしょう。
ただし、フェイスウィンドウを実装しているゲームの全てが一枚絵にフェイスウィンドウをさせているわけではありません。表示されない場合もあります。あるシーンでは一枚絵のみを表示させ、ある部分では表情差分が足りないからフェイスウィンドウを表示させる、例に挙げた『your diary』はそんな感じでうまく使っていました。
あと、(1)であげた魔法少女アイはHシーン等の一枚絵表示時にフェイスウィンドウで表情差分を加えて絵エロさを演出したりも……
この一枚絵の関連では、フェイスウィンドウのおかげでその場その場で最適の演出を行うための選択肢が増えたと考えるといいかもしれません。
◆総括
以上、フェイスウィンドウについて、その役割を5つ考えてみました。
「フェイスウィンドウなんてただの飾り?」「 ウィンドウデザイン上の都合以外に理由はない?」
まあ、そう言うわれるとつらいですけど、上記のような役割もあるということで。ゲームをやってる最中はあまり気付かない機能ですが、気にしてみるとおもしろいかもしれません。他にも役割はあるのかも。
COMMENT
コメント再修正 by udk
>名無しさん
放課後恋愛クラブはさわったことがなかったので、ちょっと調べてみました(実際には人に調べてもらったものですが)。
http://den21.blog76.fc2.com/blog-entry-1238.html
このゲームのウィンドウすごいですね。
今のノベルゲームからは想像もつかない形式で私には斬新に見えます。
放課後恋愛クラブはさわったことがなかったので、ちょっと調べてみました(実際には人に調べてもらったものですが)。
http://den21.blog76.fc2.com/blog-entry-1238.html
このゲームのウィンドウすごいですね。
今のノベルゲームからは想像もつかない形式で私には斬新に見えます。
by -
ここを見に来るような人なら大丈夫かもしれませんが
村正のシーンはちょっとネタバレ注意なのではないでしょうか?
村正のシーンはちょっとネタバレ注意なのではないでしょうか?
by udk
>(428)さん
村正のあの画像だけだと何もわからないのでそんな気にするレベルのものでもないと思うのですが、ネタバレって言っちゃうとその瞬間それがネタバレになってしまうのがつらいところですね。
村正のあの画像だけだと何もわからないのでそんな気にするレベルのものでもないと思うのですが、ネタバレって言っちゃうとその瞬間それがネタバレになってしまうのがつらいところですね。
by -
まどかマギカポータブルはフェイスウィンドウのところにキュゥべえがいて、雑誌記事見たとき、一瞬まどかの台詞をキュゥべえが喋ってるように見えたことがありました。^^;
私は個人的にテキストウィンドウとイベントウィンドウが完全に独立している
LIBIDOの放課後恋愛クラブ(PC版)が面白い発想だなと思いました。
PCの高解像度を生かした独立したテキストウィンドウがイベント絵を邪魔せずキャラクターの表情も分かるあのアイデアは
他のゲームでもあってもいいんじゃないかなと思いましたね。