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魔法使いの夜 レビュー ~最高級の贅沢作品~ 

2012年04月16日 ()

魔法使いの夜 初回版 タイトル        魔法使いの夜
 メーカー        TYPE-MOON
 発売日        2012年4月12日
 プロデューサー   武内友崇
 総作画監督     こやまひろかず
 演出/スクリプト  つくりものじ
 シナリオ/総監督  奈須きのこ
 プレイ時期       2012年4月
 プレイ時間       約20時間
 評点           85






 TYPE-MOON久々の完全新作、その新作は過去の三大作品(『空の境界』『月姫』『Fate』)と世界観を同じくするも、その世界の広げ方、物語の方向性は大きく違っていた。その方向性で見られたのは、今までと違う少年少女の物語、そして物語をより丁寧に見せることだった。語る内容を絞りそれを語りきること、物語を最大限に演出すること、本作『魔法使いの夜』はそうした作品だった。
 以下にそれぞれの要素の所感を記していく。



1/ 世界観の拡充

 世界観はいつもの奈須きのこワールド。魔術やら魔法やらの細かい蘊蓄(世界設定)があってそれらを惜しむことなく語っていくスタイルはお馴染みのもので、好きな人には相変わらずのものだろう。魔術だ魔法だの設定は聞いてるだけで楽しくなるし、有珠のプロイはどんなものが出てくるのかと心躍るものがあった。
 だが、過去三作が、設定が明かされより世界が広がっていく話だったのに対し、本作は逆に世界のつじつまをあわせるように設定の隙間を埋めていく、世界が確定されていく話であった。設定の広がりを期待するワクワク感よりも、それらが埋まっていく充足感の方が大きかったように思う。登場人物のうちメインの2人(蒼崎姉妹)は過去三作に登場する人物である。本作はこの2人の過去話であるが故に新しい世界を創ることではなく、2人の過去を埋めていく物語となってしまったのだ。シェアワールドを展開する上では致し方ないが、過去作で感じた「ワクワク感」が減ったのは大きな変化だ。
 この『魔法使いの夜』を読んでいて一番近いと思ったのは『空の境界』である。蒼崎橙子と関わり合いが深いからか、根源・魔法の設定がそう感じさせるのか、はたまた時代の雰囲気が近いからか、何かわからないがそう感じた。



2/ 物語の方向性

 幾人もの登場人物の物語が描かれた長大な過去作と比べると、本作は限られた登場人物の物語のみが描かれた小規模な作品となっている。章ごとに主題となる人物の物語も描かれた『空の境界』、ヒロインごとに異なるルートがあり、それぞれ別の物語が描かれた『月姫』『Fate』、それに対し本作は「蒼崎青子」「静希草十郎」の物語となっている(加えるなら「久遠寺有珠」「蒼崎橙子」)。このスケールの小ささが物語を読み終わった後の達成感につながらなかったのは確かで、長大で重厚な物語にあったおもしろさは薄くなってしまっている。
 しかし、本作の目指すところは長大な物語ではなく、ひとつの物語を描ききることであったのではないだろうか。



3/ ひとつの物語を丁寧に作り上げること~少年と少女の物語~

 『魔法使いの夜』の物語はいたってシンプルだ。2人の少女が1人の少年を受け入れる話と言ったら良いだろうか。それにプラスして付け加えるとすれば少年を受け入れる中での少女の変容、少女が魔法使いになった夜の話、だろうか。骨子はそれだけである。魔術師が登場して戦ったりもするがそれは見せ場としてのものに留まっている。戦いの末に何かを見出していた過去作と比べてシナリオの毛色が大きく変わっていた。
 シナリオとしては蒼崎青子と久遠寺有珠が静希草十郎を屋敷の住人として認めるまでの話。さらに魔法使いの基礎音律の「はちみつを巡る冒険」を読むと、本作が恋物語のスタートとも感じられる。恋物語としては、いきなり女の娘を十七分割したり、女の娘と魔力供給したり、二重人格云々の作品と比べるとストレートなものになっているだろう。はじめは目撃者を抹殺することしか考えていなかった少女が少年との生活を通じて徐々に態度が柔らかくなっていく様子はとても微笑ましい。殺害から共闘に変わった遊園地、それからの共同生活で少年の人の良さを知っていく少女、最後には少年のために魔法使いとなっていく少女の心情の変容は、本作で丁寧に描かれていた部分だ。最後の書庫での一幕はわかっていてもニヤリとしてしまう。



4/ ひとつの物語を丁寧に作り上げること~最高の贅沢ゲームたる演出~

 これまでのTYPE-MOON作品は奈須きのこの作品と言ってしまってもいいほど、作品の奈須きのこの占める割合は多かった。絵や音楽、演出の割合もある程度あるのだが、それでも奈須きのこの文章と世界に比べると存在感は薄い。それが『魔法使いの夜』では奈須きのこと演出のつくりものじの作品となっていた。演出の存在感がとてつもなく大きく、演出家の作品とも言ってしまいたくなるレベルの存在感だった。演出家が変わればおそらく全くと言っていいほどの別作品になっていたことだろう。エンディングのクレジットで一番最後の「総監督 奈須きのこ」の前に表示されるのが「演出・スクリプト つくりものじ」になっていることからも、演出家が作品制作の中でとても重要な位置にあることを示している。
 本作は今のノベルゲームで演出家がやりたいことをやりきった作品ではないかと思う。開発で使える素材の量や開発期間は他作品の何倍もあったことだろう。実際はもっとやりたいことがあっただろうが、少なくともこれならば妥協できるというレベルであったことに間違いはないだろう。演出の限界までこだわりぬいた作品であることは見るからに明らかだ。
 そうして出来上がった本作の演出がどうだったか、簡単に所感を述べる。

(1)演出対象は全てのシーン
 本作の演出のすごいところは、全てのシーンに演出意図があるところである。テキストが表示され、次のテキストを読もうとワンクリックする毎に画面が少し切り替わり、1ページ分のまとまった文章が表示されたら、画面が大きく切り替わる。一文のテキストに対してひとつのカットを作るという恐ろしく手間のかかることをやってのけているのだ。カットを作るだけでなく、それらのカットにさらにいくつものエフェクトもかけており、その手間は計り知れない。
 全ての文章に対して最適な画面演出を付け加えていく、それは理想ではあるが分量故に難しい。なのに本作ではそれを実践し、それ演出が作品のクオリティを大きく上げている。
 全てが演出家の意図のもと、計算しつくした演出になっていること、そこが本作の最大の強みである。

(2)視覚的に情景を伝えること
 全てのシーンが演出対象となっている本作では、その手段として読み手に視覚的に情報を伝える表現が頻繁にとられている。200枚超の一枚絵もその手段のひとつではあるのだが、本作の視覚的表現の最たるものは汎用絵の組み合わせである。ここでいう汎用絵とは何も立ち絵や背景絵に限ったものではなく、ちょっとした背景の小物や効果素材の組み合わせが頻繁に行われ、一枚絵もかくやという情景が生み出されていく。100枚超の背景絵と汎用絵で作られる情景は一枚絵と区別することが難しいレベルまで高められている。

(3)ギャグ演出の強化
 本作のギャグ要素はそのほとんどがテキストではなく、視覚的な演出動作によって行われている。ちょっとしたギャグ演出は見事である。奈須きのこの文章は「笑い」という部分ではあまりうまくないが、つくりものじの演出によって「笑い」のシーンがより良いものとなっているのは確かだろう。この演出が間違いなく機能していると言えるのはここ。たぶん演出無しでは寒いシーンが続いていたことだろう。

(4)戦闘シーンの視覚的盛り上げ
 TYPE-MOONの新伝綺作品にとって重要なのが戦闘シーン。これを如何に盛り上げるかによって読み手の印象は変わってくる。
 伝綺バトルものでは文章による設定の語りが非常に重要なものであると私は考えている。文章で事細やかにその能力設定やすごさを記せることは映像媒体にはない利点だ。しかし、文章だけではその情景を鮮明に記すことは難しく、視覚的に表現する方が情景を示すには容易でかつ盛り上がるだろう。文章で戦闘を綴りながら絵と画面演出で情景を補い視覚的に盛り上げていく、ノベルゲームの戦闘演出の利点を本作では最大限に活用していた。5章の遊園地での一戦は本作の演出が最大限にその成果を発揮した場面だろう。



/4 最高級の贅沢作品

 最後にこれらの演出がどうだったか、そして『魔法使いの夜』がどうだったか、本編の言葉を借りて私見を述べると……

「有珠は手間をかけすぎ。私、贅沢は好きだけど、贅沢に慣れるのはご免だから」
 有珠に反論しつつも、これまた上機嫌な青子がいる。


 本作は演出の手間をかけすぎて制作期間が1年以上延びている。潤沢な予算と開発期間は制作側にとって贅沢そのもの。そして、それらによって実現する演出もそうであることに変わりはない。
 普段プレイしているノベルゲームでは本作のようなレベルの演出を見ることはできず、本作に慣れてしまうとその後のゲームに支障をきたしてしまいそうだ。そして長い制作期間にも慣れてしまいそうだ。贅沢はよくない。

 けれど、本作の良いものを創ろうとする制作姿勢はとても好感が持てる。たったひとつの物語を最高のクオリティで描ききること。最高級の作品を読み終えた今、私は上機嫌だ。
 ひとつの物語を最上級に丁寧に仕上げること、こんな手間暇かけた作品を作れるのは一度きりだろうが、叶うことならもう一度見てみたい。





 参考:企画・シナリオ・原画に演出が並ぶ時代
     魔法使いの夜 体験版 感想 ~最高の贅沢ゲームになりそう~




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[2012.04.16(Mon) 21:30] 魔法使いの夜Trackback(0) | Comments(3)
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なるほど by mikisp1
私も昨日このゲームをクリアしました。
なかなかの面白さでしたけど、2年ほどの延期を経たにしては、シナリオボリュームの薄さが気になりました。
『あれ?もう終わり?』
終わったときにはそんな感じでしたね。


by 神奈みずき
>設定の広がりを期待するワクワク感よりも、それらが埋まっていく充足感の方が大きかったように思う。
まさにその通りだなと思いました。このゲームは個人的にそれに尽きる気がします。
戦闘シーンも過去どの作品よりも少ないしカッコいい発言もあまりなかったけれど。
今まで月姫やメルブラで見てきた青子というキャラが見れた、それだけで満足してしまいました。

私は長さ的にはむしろ日常シーンにまで盛り込まれた演出の事もあって、思ったよりも長いなと感じました。逆にとっとと読ませろじれったいと思う事もありましたが。

最後に思ったのが、18禁じゃなくてよかったなと……。

うーん by -
いままでの作品と違い、圧倒的に
説明不足な内容でした。
とりあえず、15歳から魔術師になったわりには
あまりにも橙子さんに対して軽薄ですよね・・
と、いうか姉妹で殺しあうことに迷いがなさすぎてw

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私も昨日このゲームをクリアしました。
なかなかの面白さでしたけど、2年ほどの延期を経たにしては、シナリオボリュームの薄さが気になりました。
『あれ?もう終わり?』
終わったときにはそんな感じでしたね。

[ 2012.04.20(Fri) 03:49] URL | mikisp1 #- | EDIT |

>設定の広がりを期待するワクワク感よりも、それらが埋まっていく充足感の方が大きかったように思う。
まさにその通りだなと思いました。このゲームは個人的にそれに尽きる気がします。
戦闘シーンも過去どの作品よりも少ないしカッコいい発言もあまりなかったけれど。
今まで月姫やメルブラで見てきた青子というキャラが見れた、それだけで満足してしまいました。

私は長さ的にはむしろ日常シーンにまで盛り込まれた演出の事もあって、思ったよりも長いなと感じました。逆にとっとと読ませろじれったいと思う事もありましたが。

最後に思ったのが、18禁じゃなくてよかったなと……。
[ 2012.04.23(Mon) 03:34] URL | 神奈みずき #Ebgrns8Q | EDIT |

いままでの作品と違い、圧倒的に
説明不足な内容でした。
とりあえず、15歳から魔術師になったわりには
あまりにも橙子さんに対して軽薄ですよね・・
と、いうか姉妹で殺しあうことに迷いがなさすぎてw
[ 2012.04.23(Mon) 03:48] URL | #- | EDIT |

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