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WORLD END ECONOMiCA レビュー ~ライトノベルからノベルゲームへの越境~ 

2013年10月24日 ()
 
WORLD END ECONOMiCA Episode.3[同人PCソフト] タイトル    WORLD END ECONOMiCA
 メーカー   Spicy Tails
 発売日    2013年8月12日
 シナリオ    支倉凍砂
 原画      上月一式
 ディレクター 蒼井亜璃夏
 プレイ時期  2013年10月
 プレイ時間  約20時間
 評点       85






■流れに逆行するライトノベルからノベルゲームへの越境


 ノベルゲームのシナリオライターのライトノベルへの「越境」という意味合いのフレーズ、一度は耳にしたことがあるあるだろう。実際にシナリオライターがライトノベルもしくは一般文芸で新作を発表する事例は既に何十とある[*1][*2}。
 しかし、逆にライトノベル作家がノベルゲームのシナリオライターになるというのはほとんど耳にしたことがないのではないだろうか[*3][*4]。ノベルゲームからライトノベルへの人材移動は頻繁に見られるが、逆にライトノベルからノベルゲームの方向にはほとんど見られない。その様は正に人材の「流出」だ。この「流出」の原因は様々なものが考えられるがここではその考察については省略する。
 さて、ライトノベル作家がノベルゲームを制作する珍しい事例のひとつが、支倉凍砂が手がける本作『WORLD END ECONOMiCA(WEE)』だ。電撃文庫の『狼と香辛料』の著者 支倉凍砂と言えば耳に覚えがある方も多いだろう[*5]。私も『狼と香辛料』の支倉凍砂が同じく経済ものの新作をノベルゲームで出すということで本作を購入に踏み切った口だ。そこには作家買いというのともう一点、ライトノベルでそれなりに人気ある作家が新作を小説ではなくあえてノベルゲームで出すということで気になることがあったからだ。ノベルゲームで出すからにはその物語をノベルゲームで出す理由があるのではないかと。
 そして本作を最終章まで読んだ結果、傑作だった。本作の題材と尺を考えれば、この物語をノベルゲームで出したというのは正解だったと言えよう。



■ノベルゲームを選んだ物語 ―新経済圏"月面都市"を描く経済SF―

 中世西欧の世界観で経済ネタ片手に主人公とヒロインのいちゃつき道中を描くのが『狼と香辛料』とすれば、近未来の月面都市の世界観で経済ネタをふんだんに使って主人公の成長譚を描くのが『WEE』だろう。題材的にはSF色・経済色が強く、電撃文庫よりはハヤカワ文庫JAの方が似合う[*6]。むしろこの内容ではSF色・経済色が強すぎるために電撃文庫で出すのは厳しいかもしれない。かといってハヤカワだと美少女ヒロインが出てきすぎかも。特に内容を気にせず好きなことを好きなように描けるというのは媒体をノベルゲームに選んだ利点だろう。
 シナリオには支倉凍砂がやりたいことを好き勝手やった感じがよく出ていて、新経済圏"月面都市"の発展していく様を緻密に描いていくのは、経済分野に強い支倉凍砂ならではだろう。月社会と月経済の描写としてはSFとしても十分に通用するレベルだ。単純に新しい経済圏が誕生したということではなく、それが月面であることを物語にうまく組み込んでおり、月を舞台に選んだ必要性も十分満たしている。その月面の舞台も文章と絵の双方で描くことができ、月面都市という未知のSF世界もノベルゲームではビジュアルつきになることで容易く想像することができる。かといってビジュアル面で強いからってアニメーションでは難しい。経済SFの世界を描くには文章による解説と絵による描写の双方が必要であるからだ。絵による補佐があれば、難解な設定や金融取引についても容易に解説できる。
 シナリオの配分は、月社会・月経済が四割、主人公が四割、おっさん一割、ヒロインその他が一割[*7]といったところで、見所のひとつは激変する月の経済情勢とそれを利用した超高額の取引だ。物語は主人公が新興の月市場で株取引をするところから始まる。はじめは個人で株式のデイトレードをしているだけだが、そこに金融数理を用いたシミュレーションを取り入れたりして手法を凝らし、さらに投資ファンドを作り資金を拡充させ、単なる株取引だけでなく債権取引にまでスケールが広がっていく。話が進むにつれてスケールアップしていく金額は圧巻で、第一部の知人の財産をかけた株取引に始まり第三部では国家予算規模の金額を扱うことになる。最終的には月経済の激変によって、月面都市の終焉の運命までをも彼は背負うことになる。金融取引はギャンブルにもよく似ていて、物語山場のここぞという時の駆け引きがとてもおもしろい。そして本作のギャンブルは史上最高額の賭けだ。国家予算規模の金額をその手に賭ける。そんなものがおもしろくないわけがないだろう。勝てば全てを手に入れ、負ければ全てを失う状況での主人公の決断、そこは光るものがあった。金融工学の手法をドヤ顔で披露して莫大な金額を稼いでくるキャラクターや金融業界の裏を操っているキャラクターを知略で出し抜いて、最高の取引を達成した瞬間は爽快のひとことだった。
 もうひとつの見所は主人公そのもので、彼の金融取引を通じて成長だろう。失敗してどん底に落ちようと、それを周囲の人たちと乗り越え、さらにその経験を糧に成長し突き進む主人公の姿は見ていて感動した。彼ならば、この取引の舞台に立つのもふさわしい、そう納得させるだけ説得力が彼の成長にはあったように思う。



■ノベルゲームに詰め込まれた物語

 そんな激動の物語が総計20時間前後のパッケージに詰まっている。本作は尺の面でもノベルゲームに適していた。全三部構成の一部あたり6~8時間程度の読了時間。これを単純に小説に移行しようと一部あたり1冊にまとめようとすると非常に厳しい。かといって上下巻に分けると、各部後半に見せ場を持ってきているため、上巻で読むのをやめてしまう人が続出するだろう。尺を自由にデザインできるゲーム媒体、本作のように20時間にも及ぶ長い物語をひとつのパッケージにまとめられるのはノベルゲームの強みだ。
 絵と音楽を使ったクライマックスの盛り上げ、エンディングムービー中に流れるエピローグ、それらもまた媒体を活かした演出であり、強みだ。ノベルゲームとしての細部の作り込みはまだまだ改良の余地はあるが、第一部、第二部、第三部と演出技能が大きく向上しているのを考えると、この蒼井亜璃夏率いるこのサークルはこれからも伸びていくのではないかと期待している。

 もともとの物語がノベルゲームに適していたのか、脚本を執筆するうちにノベルゲームに適するように作ったのか、それはわからない。だが、『WEE』は間違いなくノベルゲームで出すに適した物語だったし、そのように作られていた。流れに逆行するライトノベルからノベルゲームへの越境の意味は確かにそこにあったのだ。






 ……



 …………



 ………………




 でも、シナリオライターの支倉凍砂にとってノベルゲームであるかどうかは些細なことだろう。
 彼はきっとケモノ耳としっぽの絵を見たかっただけだろうから。
 小説と違って、ノベルゲームでは彼の大好きなケモノ耳のビジュアルがずっと表示されているのだから。
 月面都市にはケモノ耳キャラクターを出せないからといって「ケモノ耳パッチ」をわざわざ用意するあたり、彼のケモノ耳属性はホンモノだったようだ。








[*1] 3年前の資料ですが参考までに……。エロゲ出身ラノベライター・コミック原作・アニメ脚本家 http://dakuryu.sblo.jp/article/58519701.html
[*2] ノベルゲームとライトノベル、両方を出し続けている作家もいれば、完全にライトノベルに転向している作家も存在する。
[*3] 自身のライトノベルのゲーム化は除く。ライトノベル作家が制作したノベルゲームだと、七月隆文「天使郷 -ヘブン-」。全部一人で制作したゲームです。絶賛積まれています。ポリフォニカは当てはまるか難しいところ。他には[*1]のリンク先に何名か。
[*4]もともと同人小説・WEB小説書いていた人がノベルゲームのシナリオライターになった事例は多数。本作の事例は商業ノベルゲームではなく同人ノベルゲームなので厳密には違う。商業ノベルゲームと同人ノベルゲームだと流通が異なるのと商業は同人ほど自由な作風で描けないかもしれない。
[*5] 狼と香辛料……途中の巻から絶賛積まれています。全部読んでないのに狼と香辛料とWEEの二作を比較してすみません……。WEEよかったし、香辛料も最後まで読んでみよう、うん。
[*6] 最近のハヤカワ文庫JAはライトノベル作家が多数流入してきているのでピッタリだろう。ハヤカワ文庫JAもライトノベル作家が流入してきてライトノベルっぽくなっているのだが、間口が広がるのは個人的に歓迎なので。好きなSFの作風はライトノベルっぽいSFです。ハヤカワに足りないのは美少女成分だと常々考えているので、ラノベを見習ってもっと美少女成分をですね……。
[*7]ハガナもいいけど、エレノアも好きです。それよりバートンがいいおとk、げふんげふん。
[*8]ライトノベルからノベルゲームへの越境は今後も継続的に起こりうるか、作品自体にはあまり関係しないので別枠で。







■ライトノベルからノベルゲームへの越境は今後も継続的に起こりうるか[*8]

 本作がノベルゲームで世に出たのは、支倉凍砂がノベルゲームを作ることができる環境にあったというのが大きい。
 「作ることができる環境にあったから作ってみた」このノベルゲーム制作の条件にあてはまる人の数は作家の数に比して圧倒的に少ない。ゲームのシナリオを書いてみたいと考える作家がいてもゲーム制作の環境がなければ作品は生まれない。小説だと出版社によって整備された環境があるというのは大きい。小説と比べてゲームは制作のために必要な人を揃えるというのは大きな障害になっているだろう。個人でノベルゲームを作れるようなソフトはあるにしろ、完成させるために必要な労力は単に小説を書くのと比べものにならない。作家がその物語に最も適した媒体を選択可能であるという状況は理想だが、実際は作家の選択肢がある媒体以外に存在しない場合が多い。
 同人サークルを率いている本作のディレクター「蒼井亜璃夏」と「支倉凍砂」は巡り合わせがよかったのだろう。ゲームを作りたいという作家とゲームを作る能力を持つディレクターの出会いは運命的といっていいくらいの確率ではないだろうか。
 おそらくは、このような巡り合わせがもっと増えれば、ライトノベルからノベルゲームへの越境はもっと起こるし、両者の間の流動性が強まりることでより良い作品が生み出されるのではないだろうか?





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[2013.10.24(Thu) 23:11] ノベルゲーレビューTrackback(0) | Comments(1)
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